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東京広島県人会

活動報告

一般社団法人 東京広島県人会 2019年講演会・会員総会

2019年2月22日 開催

講演会:テーマ「どうして弁護士が小説を書くのか」

講師 牛島 信弁護士 東京広島県人会常務理事(現在副会長)
昭和24年宮崎県生まれ。広大附属高卒。1975年東大法学部卒業後、検事任官。1979年退官し35歳で独立し、牛島総合法律事務所代表パートナー弁護士。1997年に小説「株主総会」がベストセラーになるなど経済小説10冊を上梓。

 

初めて小説を書いたのは47歳のとき。W.サマセット・モームの短編小説「弁護士メイヒュー」を20歳のころ読んだ。この中に腕利きで成功していた弁護士が「くだらぬやからの、つまらぬいざこざを調停して一生を終わるよりも・・・」というくだりがあった。この弁護士は膨大な「ローマ史」を書くことに挑戦して、14年間かけてメモを作り上げ、書き始めた時に死んでしまった。モームはこの主人公について「自分のしたいことをして、ゴールを目の前に臨みながら死んだ。そして目的が達成された時の幻滅の悲哀などは味わわずに済んだ。そういう意味でこの男の人生は成功だ」という趣旨のことを書いている。

私が最初に小説を書いたのは22年近く前。株主総会の助言役をしていたのだが、ある法律上の慣行について疑問を持った。調べてみると、どうも危ないのではないかと思った。当時は株主総会での動議などに円滑に対応するため、慣行として株主総会を担当する総務部長個人宛てに委任状を集めていた。「この人物が反乱を起こしたらどうなるのか」という疑問になり小説にした。私は城山三郎の「乗っ取り」が非常に面白いと思ったし、実は高杉良の「会社蘇生」に私自身が「北島弁護士」として出てくるのだが、当時何か抑え難い欲求が湧いてきた。47歳で、それなりの経験を積んできて、大体わかってきたけれども、これから何が起きるのかと。「人生は『移動祝祭日』(ヘミングウエイ)の連続ではない。夢中になるだけでなく反芻してみるのも一興ではないか」と思った。私自身、弁護士で文章を書くことは毎日やっていたので、広い意味では私の文章は散文。10冊の小説を書いたが、ものを書くのは好きだけれども、実は編集者から頼まれて書いてきた。 どんなテーマかというと、会社の争奪や一見些細なルールや慣行の大事さ、人間の欲望が会社の形をして蠢いている実感。

 

「買収者」という小説の中では、65歳の男が、昔好きだった女性を何とか妻にしたいと、その女性の夫が経営する大会社を妻ごと乗っ取ってしまうという内容。「年齢ではない、生きていることは同じだ」というセリフを書いた。
会社経営者の立場、部下の思い、監査役の感慨、米国の買収ファンドの狙い、投資銀行家の思惑など色々な事を書くが、結局「会社の取り合い」からコーポレート・ガバナンスに行きついた。
最新の小説「少数株主」でコーポレート・ガバナンスを考えた。同じ少数株主でも非上場会社の少数株主は無視されていることを仕事の上でも色々と経験することがあった。例えば日本に株式会社は258万社あるが、このうち上場しているのは3700社。非上場の会社はコーポレート・ガバナンスコードの直接適用はないから、オーナー経営者の身勝手が通ることが多い。そう意味で多くの人がいる株式会社で起こる人生の悲劇について書いた。ではどういうところが小説になるかというと、「今ここでの具体的な事実の外に、事実は存在しない」のではないかということ。人生1回おきて終わったら、それでお仕舞と。勿論、似たことが起きるから裁判例になるのだが、それが積み重なると法律になる。しかし実際に起きていることを見ると、この世に顔のない人はいないどころか、一人一人の顔は違う。一つ一つの事件は違い、登場人物にはみんな顔が付いている。顔のある一人一人で出来上がっている。トルストイは「幸福な家庭は皆似ているが、不幸な家庭はそれぞれに違う」と言った。私は裁判では、それぞれの人生は“掬いきれない”だろうと思う。一人一人が違う生活を営んでいて、そのうち法律に関わった部分だけが裁判に、或いは法律的な仕事になる。三島由紀夫が「夜中、小説を書いて興に乗ると、まるで自分が地球に鞍をかけて鞭を当てている気分になる」と書いていたが、小説家は一人で何もかも出来てしまう。もちろん取材とかで協力してもらうことはあるが、映画は一人では作れない。山に登って魚を釣る人はいない、海で栗拾いは出来ない。作家は知っている世界の事しか書けない。私は、ビジネスと法務については朝から晩まで浸かっているので、特に勉強しなくても“土地勘”がある。小説家としてはイージーなのかもしれないが、それが段々コーポレート・ガバナンスという焦点を結んできた。
コーポレート・ガバナンスとは何か。まずカイシャは「公器」だと思っている。会社が社会に存在を許されているのは何故か。それを認めない場合に比べ、比較にならないほどの雇用が可能となるから。人は働いて報酬を得ることでこそ、生きがい、幸福を見つけることが出来る。芸術家と犯罪者以外は仕事しかない。趣味はもちろん大事だが。2006年に製紙会社が敵対的買収をかけられたとき、買収される側の代理人だった。乗っ取り合戦に負けると、その会社の幹部は行き場がなくなってしまうのだが、どうしても妥協しないで独立していたいという姿勢を貫いている姿を見て、会社というのは、こういう人たちが一生懸命やることによって支えられているのかと大いに感銘を受けた。
クリントン政権の労働長官を務めたロバート・ライシュは「国の経済は居住する国民のために存在すべきである」と言った。「居住する国民のために」というのが難しい。例えばトヨタ自動車の株主の9割は外国株主で、ことによると「日本に工場はいらないのではないか」と、すべて外国に移転させて株主への配当をもっと増やしてほしい、利益が上がるから株価も上がる、投資家としてはそうしてほしいと言ったらどうなるのか。年金の投資対象としての上場株式の問題。中長期的な成功を考えなければいけない、短期的に考えるのは良くない。ただ雇用は、保護することが出来ない。1917年から大実験をやって結局失敗したのがソ連だ。
誰が会社を経営するのか、経営者しかない、株主は経営しない。そうすると資本主義の中核に有るのは、経営者、リーダーたち。コーポレート・ガバナンスは優れた経営者を得るため、“首を挿げ替える”仕組み。企業利益を上げ、株主に報いるというのは、株主から見れば究極の目的だが、社会全体から見れば途中経過に過ぎないと考えている。
そこで、リーダーを選ぶということについて、社外取締役が重要になってくる。つまり、王様の首に鈴をつけるのは誰にもできない。では社外取締役は何のために、誰のためにあるのか。経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることとされている。
2015年から約2年、18名のビジネス界の著名なリーダーとコーポレート・ガバナンスについて対談した。コーポレート・ガバナンス改革を受けて、上場会社では社外取締役の導入が劇的に進んだ。東証一部では独立社外取締役が、2014年の1760人から5174人まで(延べ人数)増加した。しかし、社外取締役が適切にその役割を果たしているか。東芝での不正会計など見ると、そうではなかったのではないかと思う。第三者委員会の独立性も問題ではなかったか。ただその後経営陣を大幅に刷新し、社外取締役を過半数にして監督権を強化した。現在の東芝が有るのは、この改革のお陰だと思っている。2016年12月、原発事業のために数千億円規模の損失が発生するという可能性を、社長の抵抗を押し切って公表させたのは社外取締役だった。隠していたら東芝は消えていたかもしれない。私は社外取締役の一つの金字塔だと思っている。コーポレート・ガバナンス、社外取締役の役割については中長期的な企業価値の向上、経営の監督、利益相反の監督、そして少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を適切に取締役会に反映すること。
日本の取締役会は“全会一致”が当たり前になっているので、社外取締役が反対すると、議案の差し戻しが出来る。或いは、事前の説明の際に「私は、それは反対する」と言うと、会社側が議案として出さない、或いは修正せざるを得ない、そういうことが着々と進んできていると思う。
社外取締役というのは、どういう責任を果たすことが必要なのか、どんな工夫がいるのかということについて、この対談の中で色々と教えていただいた。
ビジネスリーダーの皆さん(肩書きは当時)との対談の中で、帝人相談役の長島徹さんは、「リスクがあってもやるべきだと思えば経営陣の背中を押す」
カルビー会長兼CEOの松本晃さんは「社外取締役は見逃されているリスク、経営者が目を覆いたくなるようなチェックをする役割」
ANAホールディングス会長の伊東信一郎さんは「社外取締役が案件についてコンプライアンス上、問題が無いかを確認してもらう、目的を理解してもらうことでチェック機能が働き安心感が生まれる」
また、会社の後継者選びに関し、社外取締役に期待される役割について、コマツ相談役顧問の坂根正弘さんは「本当に部下から信頼を得るタイプなのかは社外の人は、とてもじゃないけど分からない。社長が責任をもって決めなければならない」
松井オフィス代表・良品計画名誉顧問の松井忠三さんは「指名委員会のメンバーは、社長候補や執行役の人を知らない。顔を知っていても現場でどうなのかを知らない。だから経営者が選んだ人材をチェックする仕組みになっている。社長はコントロールできない存在だからこそ、複数の人が違った角度で見ることが大事だ」
これに対して、経営共同創基盤(IGPI)CEOの冨山和彦さんは「経営者の実質的指名権を、これまでは前社長などOBが密室で排他的に持っていた。歴史を見ると組織のトップが後継者を自分で適切に選んだ例はほとんどない。だから社外取締役の責任は重い」
オリックスのシニア・チェアマンの宮内義彦さんは「経営者がイノベーティブな後継者を育て選ばないといけない。社外取締役がそういう人材を推す、社外取締役はそういう発想力と行動力が必要」
元検事総長で弁護士の但木敬一さんは「社内の広範囲の人物から選択せざるを得ない経営の執行役を選ぶのに社外取締役の役割は向かない。一方、社長を選ぶことに関しては、重要な役割を担うべき」
また社外取締役の資質について、松井さんは「解任してくれるような人を選ばなければいけない。自分のアクセル役になってもらうためには、きちっとした意見をもっていて、いざという時に自分の首を取ってくれるだろうと思える人」
株主総会で株主が取締役を選び、取締役会がトップを選ぶ。これに対し今でも多くあるが、正反対に、社長が取締役を選び、株主総会が追認する、上手くいっている会社は大体こうかもしれない。むしろ社外取締役がいちいち口を出して、社長の後任をどうしなければならないのかと言う必要が有る会社の方が問題なのかもしれない。例えば、IBM、社外出身の取締役が続いて、そして全て上手くいっているはずだったが、会社がダメになった。
しかし現在のガバナンスは、東西を通じて取締役を選ぶのは株主であるというのは違わない。株主が社長を選ぶというのが本当ではないかと株主からは見えるということ。
その株主の、いわば代理人として社外取締役がいる。そこで、資質を備えた社外取締役を選んで、その人たちに情報を良く理解してもらうことが大切。そしてトレーニングを受けてもらう。通産省では経営経験のある人が社外取締役にいるべきではないかと。
大坂商工会議所会頭・京阪電気鉄道最高顧問の佐藤茂雄さん(故人)は「社外取締役には事業家、実業家が良い。自分が経営を経験しているからこそ、発言に重みがある」
松本さんは反対に「社外取締役は元経営者でも、学者でも弁護士でも良い。大事なのは、どれだけやるべきことに集中できるかだ」
更に社外取締役は誰が選ぶのかについて、
(公財)21世紀職業財団会長の岩田喜美枝さんは「社外取締役の選任でも、どんな人が望ましいかというのは最終的に経営判断。社長が介在しないということは有り得ない」
松本晃さんは「私と社長と人事担当役員が真剣に選んでいる。基本的には何でも言ってくれる人、耳が痛いことでも遠慮なく言ってくれる人であることが前提。自分の考えに文句を言ってくれそうな人を選ぶ」
佐藤茂雄さんは「社外取締役は経営者が任命するが、客観性を保てるのか疑問もある」
但木敬一さんは「指名委員会で選任するからこそ活躍の場がある」
宮内義彦さんは「社外取締役は、たくさんの社外取締役をやるのではなく、責任を持って
1社を担当し、社外取締役同士が横で連携して知恵を出し合うべき」
社外監査役の場合は、監査役会などで社内監査役から情報が伝わりやすい。社外取締役は取締役会に付議された事項以外の情報を得にくい。取締役会事務局のサポートが重要。取締役会での情報は限定された知識に基づくもので、ある種のバイアスがかかっていることも。その対応としての現場との直接交流も、“知りすぎてしまい物分りが良くなる”ジレンマもあるので、個別の判断ではないか。
取締役のトレーニングとしては①取締役の事前説明②社内役員との懇親③取締役資料を分かりやすく作成④工場等の現場見学を提案している。
別件として非上場・同族会社ではコーポレート・ガバナンスが機能していない場合が多い。問題は少数株の買主候補がいないという現実だ。買主さえ見つかれば、どうやって買い取ってもらえるかは法律に詳細に書いてある。しかし、現実にはいない。そこで買主候補に自分がなりたいという志を立てた男の事を最新作の小説に書いたが、非上場・同族会社の株式を流動化してゆきたいと。
例えば、皆さんが100億の不動産を持っている会社の株を49%持っていて、51%を従兄が
持っているとする。100億の不動産であれば年に3億円くらいの利益が出るが、49%の株主にはまったく何もない。すべて51%の株主の従兄へ行ってしまう。従兄が社長でその妻や家族に給与を払い、余れば内部留保になる。私は49%の株主も。相当程度の評価がされるべきだと思っている。

 

総会は18時より開催され無事に閉幕しました。
審議事項
第1号議案 平成30年決算について
原案通り承認されました。決算内容はホームページの決算項目参照。

第2号議案 理事の選任について
原案通り承認されました。新任理事を含めた理事一覧を添付。
理事一覧2019

報告事項
1.ふるさと納税の仕組みを活用した広島県の教育予算への資金支援について
広島県は、グローバルリーダー養成校としての県立の中高一貫校 広島叡智学園を今春開校させるなど教育改革について先進的な取り組みを行っています。わたくしども一般社団法人 東京広島県人会ではこうした広島県の先進的な試みについて、ふるさと納税の仕組みを活用して県の教育予算を資金面で支援すると1月の理事会で決議しました。ふるさと納税用紙をお使いいただいてもできますし、インターネット経由でもできますので、是非、会員の皆様にも理事会決議をご理解いただき、この活動にご協力いただきたいと思います。

2.平成30年の活動実績と会員の状況
平成30年は7月に臨時理事会を開催しましたので計3回、理事会を開催しました。正副会長懇談会を1回、春と秋の役員懇親会、また、11月には学生・若手応援セミナーを開催しました。

昨年末の会員数は1524名で、前年比144名の増加となっています。