事務局便り
【「人生学」講義】第2回広島U-30応援セミナーより⑤
【「人生学」講義】第2回広島U-30応援セミナーより⑤
連載 ―「人生学」講義 第2回 ―
2017年11月22日(水)ひろしまブランドショップTAU3階で開催した第2回広島U-30応援セミナーの講義を連載でお届けいたします。
第2回目の講師は、一般財団法人機械システム振興協会会長・東京広島県人会副会長の児玉幸治氏(1934年生まれ。広島大学附属高等学校卒業、東京大学法学部卒業、通商産業省入省。同省事務次官、日本興業銀行顧問、商工組合中央金庫理事長、その他の役職を歴任)です。
「人生学」講義 第2回 児玉幸治氏 ⑤
それから、もう時間がなくなってきましたが、あと一つだけ、非常に困った話、今にも通じる話をして終わりにしたいと思うんですけど、湾岸戦争というのが1990年8月に起きたんですね。なんで起きたかというと、イラクがクウェートに攻め込んできたわけです。イラクにいわせますと、クウェートが油を採るのに地下に穴を掘って、だんだんだんだん深いところにいくわけですけど、イラク側の油田にまで穴を延ばしていって、自分たちが本来持ってるはずの油をクウェートに採られているという議論をして、「それをやめろ」と。「やめろ」と言ったってやめないわけですけど、そのうちとうとうイラクがクウェートに侵攻してくるという事態になりました。これが「非常にけしからん」というのが国際世論で、多国籍軍というのがイラクに攻め込んでいくということになったんですけど、その時に当然、日本もいろんな形でそこに対応していかざるをえないわけでして、まず物の輸出について言いますと、紛争地域に武器に関連するような品物を輸出することはできないというんですが、これは実はCOCOMという国際的な制度があったために、一応法律的には形ができていましたので、これで対応できました。
ところが、お金の問題になりますと、たとえばクウェートの政府は日本の銀行にいろいろな取引もありますから、資産を預けている、と。それをイラクがクウェートを占領した後、イラクの資産を引き出して自分たちの口座に移そうと言ってきたら日本はどうするんだということになりました。日本の当時の為替関係の規制では、これに対応する手がかりがなかったんです。それで、これは大変だということになりまして、大急ぎで政令を作りまして、官報で弘報したんですけど、突然にやる規制ですから、準備をし、官報に載せて、実際にそれを施行するのに2週間ぐらいはどうしたって時間がかかる。もしその2週間ぐらいの間にイラクがクウェートの資産を取りに来たらどうするというので、当時の大蔵省は日本中の銀行に、もしそういうような要求があった時には慎重に対応するよう要請しました。慎重に対応するというのは、要するに、時間稼ぎをしろ、ということを言ってたわけなんですけど、それで見事に2週間を乗り切って、お金に関する法の整備はできたんです。したがって、安全保障上、物の出入りと金の出入りについては、ようやく1990年に体制ができました。
しかし、その後、もっと近くの方でいろいろきな臭い話が最近出てくるようになってきたわけでありますけど、これについてはどういう事態が起きた時に日本国はどういう対応をするかということについては、正直言って、いまだに何もできていないと言っていいんじゃないかと思います。集団安全保障についての法律が野党の反対を押し切って成立して、今でも立憲民主党あたりは「あれ、やめろ」と言ってますけども、あのレベルの話の前に、もっともっと、たとえばどっかにどっかの国の人が仮に上陸して来るとなった時に、そこに軍隊を派遣して防戦する、敵を撃退すると、そのためにたとえば戦車とか装甲車とかいろんなものが現場に行かなくちゃいけない。現場に行くための優先通行権も、いまだに法整備は何もしてないんですね。したくないと言う人がたくさんいるわけで、したがって何もできていない。それはおろか、少し大きな戦車、最新鋭の戦車ですけど、けっこう重たい戦車で、そうすると重たい戦車が走れる橋というのが限られているんですね。ですから、どういう通路でどういうふうに走って行けばちゃんと目的地に行けるのかということについても、全く検討が行われていない状態だと思います。
それからもう一つ、これは私も自分の目で見た話じゃないからあまり言えないんですけど、仮にそういうことでどうしても戦闘状態が起きて、日本の海岸で日本が防備にあたるという時に、日本が持っている小銃の弾とか、あるいはミサイルが何発だったか、全部計算してみて、それがどれくらいもつのかというのを考えますと、非常に寒々としてくる。おそらく小銃弾なんていうのは本気になって撃ちまくれば2日か3日でなくなるんですね。要するに、その程度のものしか持ってないんです。なぜなら、そんな無駄なもののために金を使う必要はないという感じがずっとこれまで続いてきてますから、そういう状態のままできてますから。ここらで、どうするかというのはやっぱり国民的な議論が要るんだと思うんですけど、あんまりこういう議論をしようという雰囲気は、正直言って、ないんじゃないでしょうか。皆さんもあんまりお考えになったことはないでしょう。あんまり議論はしたくないかもしれない。要りもしないのに小銃の弾をもっとたくさん作るというのは、本当に要るのということになりますからね。判断が非常に難しいので、そこらは本当に政治的な決断というのがどっかで要ることになるんじゃないかなと思っておるところであります。
もう長くなったのでやめますけど、振り返って、話したことの中で私が一番皆さんにお願いしたいなと思うのは、やはり少しタイムスパンを長くとってものを考えるということを、ぜひ時々思い出してみて心がけていただければありがたいなと思っております。あとはご質問があればまた何でも答えさせていただきますので、これで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。
<⑥に続く>