事務局便り
【「人生学」講義】第2回広島U-30応援セミナーより③
【「人生学」講義】第2回広島U-30応援セミナーより③
連載 ―「人生学」講義 第2回 ―
2017年11月22日(水)ひろしまブランドショップTAU3階で開催した第2回広島U-30応援セミナーの講義を連載でお届けいたします。
第2回目の講師は、一般財団法人機械システム振興協会会長・東京広島県人会副会長の児玉幸治氏(1934年生まれ。広島大学附属高等学校卒業、東京大学法学部卒業、通商産業省入省。同省事務次官、日本興業銀行顧問、商工組合中央金庫理事長、その他の役職を歴任)です。
「人生学」講義 第2回 児玉幸治氏 ③
皆さん、最近の政治情勢というのはよくご存じだと思いますが、10年先の日本の姿を思い描いて政治家が皆さんに提示しているかというと、そういうことにはなっていませんね。それどころか、アベノミクスもいいんですけど、2年か3年の勝負で、メディアも急がせますし、目に見える成果を出せということになりますから、どんどんどんどん目先の、非常に短期の視点で物事を見るという感じが強くなっているような気がします。
それから、就職されている方はおわかりだと思いますけれど、そういう高度成長の時代の企業は、国が10年というぐらいですから、非常に長期のスパンで自分の企業の発展についての計画を立てて、皆が一緒に頑張って目標に向かって突進するという感じであったと思うんですけど、最近の状況は、四半期ごとに企業が儲かったか儲からなかったかという情報を出して、それを新聞にいちいち書かれちゃう。儲かったか儲からなかったかというのは四半期、わずか3カ月の話をしているんですね。そして次の3カ月はどうなったかどうなったかと、こういうふうな短期的な話が多くなってきて、かつて日本の持ち味というのはアメリカなんかと違って目先のことではなく、長期展望で物事を考えているというところが日本企業の強みだと言ってたはずなんですけど、いつの間にか、この短期の発想でしか物事が考えられなくなってきたというところがあるように思うわけです。
そういう意味で、就職されている方もそうですし、これから就職される方も、お願いをしたいなと思うのは、どうしても短期的な成果を求められるけれども、もうちょっとその先に5年でも10年でもいいんですけど、自分自身の人生の取組あるいは目標あるいは計画というものをぜひ考えてみてもらいたいなというふうに思っております。
なぜこんなことを言うかというと、実はこのあいだ中国で共産党の中央大会がありましたよね。それで習近平の2期目が始まった。我々が仕事をしてきた時代というのは、中国というのはほとんど存在感はなかったんですよ。共産党の政権が1947年に成立して、毛沢東の時代はいろんなことがあって国内が混乱していました。鄧小平が出てきてようやく落ち着いてきて、社会主義市場経済がスタートしたというぐらいのところですから、日本の経済の規模からいえば、10分の1ぐらいもないような小さな国だったんですけど、今は逆ですね。日本の3倍も4倍も大きな国になってますけど、今度の習近平が党大会で言っていることというのが、今の日本では考えられないくらい長期展望を言ってるわけなんですね。
一つは、共産党が中国にできたのは1921年だそうですけど、したがって2021年には共産党ができて100年。それから今の中華人民共和国が成立したのが1949年ですから2049年になると、今の中華人民共和国ができて100年になる。で、今度の彼の演説の中には、2021年を概ね2020年と区切ってますけど、「小康社会」――まあまあの暮らしができる社会というのは、つまり中産階級が主流になるような社会というのは、2020年までもうあと3年なんですね。これはできるだろうと。2049年は、これは丸めて2050年と言ってますけど、「社会主義現代化強国」というものができると。これは世界一強い国を中国は作るんだというふうなことを言ってるわけです。
さっき所得倍増計画は10年の長い計画だと言ったんですけど、今の中国の考え方というのは、そういうふうに今の2017年から数えても30年以上先の話まで展望に入れて国の行く先を定めて、それで皆で頑張ろうと言ってるわけですね。そこのところがなかなか日本のような国が、さっきも申し上げたような状況の中で比べますと、かなり様子が違っているということを感じざるをえないわけでして、そういう意味でも、皆さん、中国の動きも頭に置きながら、日本として長い目で見て彼らがやることに対して何ができるのかなというふうなことをぜひ考えてみてもらいたいなと思うわけです。
それからもう一つですね、今度の習近平の演説の中で、あんまり新聞には出てこないんですけど、これまで私どもは戦後一貫して当然のことと思ってますけど、民主主義、個人の人権を尊重して自由な経済の中で、非常に民主的な意思決定が行われ、物事を進めていくのが当たり前だと思っていますし、したがって世の中というのは民主主義になっていくのが社会の進歩だというふうにだいたい考えているわけですね。ですから、発展途上国で非常に政治的に問題の多いような国に対して、アメリカをはじめとしてそうなんですけど、皆民主化の要求というのをしていて、それ自身が正義であり、それが当たり前だというふうに思ってますが、今度の習近平の言ってることの全体のトーンというのは、そうじゃないですね。今までその欧米が思ってきた民主主義、自由主義の価値観に、新しい発想で、違った体制、違った秩序を打ち立てて、それで勝負をしていくといいますか、そういう感じが至るところに出ています。それは古い感覚でいえば、非常に権威主義的で統制的で、非常に住みにくい社会なんじゃないかという気がするんですけど、必ずしもそうであるかどうか我々もよく見てみなければまだわからない。
私は、実は、ソ連という国があった時代に、ソ連に行きました。ソ連と中国は、同じ共産党という名前で国を統治していたんですけど、ソ連は共産党統治で1991年に崩壊してなくなっちゃったわけです。で、中国はこのソ連の共産党の政策の失敗というのをよく見ています。鄧小平が社会主義市場経済というのを持ち出してきたのは、すごい知恵だったわけでして、ソ連が崩壊した後、日本に、新しい経済秩序を作るのにいろいろ知恵を貸してくれと言われて、シンポジウムにも行ったことがあるんですけど、本当に気の毒でした。
ゴスプランというのがソ連にはあって、すべて計画経済でやってましたから、体制が崩壊して、混乱の中で皆好きなようにやってみろと言われると、これまで国営企業をやっていた人たちも、まず自分の今作っているものをいくらの量を作ればいいのかわからない。なぜなら、これまでは国が指示していたから。作るとすると原材料をどっかから買ってこなくちゃいけない。従来は、国の指示で原材料は送ってきたんですね。それから、できあがったものは自分が売りに行くんじゃないんですよ。やはり政府が指示したところに送り込んでおけば、それが売りさばかれる。こういうことになっていたんです。で、設備投資に金がいるというのも、政府に要求すれば金が来る。機械はどこからか来る。こういうような状況だったわけですから、放り出された人は何をどうしたらいいのかわからないわけですね。物をいくら作ったらいいのか。材料の調達はどうするのか。販売ルートはどうするのか。投資はどうするのか。だいたい人を雇って人件費を決めるのも、今まで自分で決めたことはなかった。そういうのがソ連の体制で、それが壊れたわけですが、中国はそれを見てます。それで社会主義市場経済というので、市場経済の原則も採り入れた。しかし、一番大事なところはコントロールしているという形できているんですね。だからたぶん、そういう形をこれから世界にどんどん広げていきたいと思っているわけですね。
「一帯一路」という構想を皆さんお聞きになったと思うんですけど、あの構想も自分の国内の経済発展に役に立つからということもありますけど、今のような考え方を外にどんどん持っていって、いうなれば、自分たちと同じような仕組みの国を周辺にどんどんどんどん広げていって、運命共同体ということを彼は言っているんですが、お互いに運命共同体の関係にあるということを期待しているということを言ってます。ですから、この辺はちょっと私どももどっぷりと民主主義の中に、自由主義の中につかって生きているんですけど、そうではない価値観の、大きな国がこれから世界で影響力を持つようになっていくだろうなという点については考えておいた方がいいんではないかなと思っております。
<④に続く>