事務局便り
【「人間万事塞翁が馬」講義】第4回広島U-30応援セミナーより③
連載 一 「人間万事塞翁が馬」講義 第3回 一
2019年11月29日(金)広島大学東京オフィスで開催した第4回広島U-30応援セミナーの講義を連載でお届けいたします。
第4回目の講師は、東京広島県人会副会長の三浦惺氏です。
【略歴】東京大学法学部卒業、電電公社入社後、東日本電信電話株式会社社長、日本電信電話株式会社社長、同社会長を歴任。
現在、日本電信電話株式会社特別顧問、株式会社広島銀行取締役、日本生命相互会社取締役
三浦副会長講演(「人間万事塞翁が馬」講義 ③)
次のAI。もうこれはもうご存じのとおりです。ディープラーニングというのが出てきて、今、第3次AIブーム。AIが有名になったというのは、やっぱりAlphaGoですよね。囲碁の世界でAIというのは、急速に、進歩をしまして、一昨年ですか。世界で一番強いという柯潔という中国の九段に連勝して、これで人間の囲碁は絶対にAIに勝てない。囲碁の棋士もそれを認めています。もうGoogleもこれからは人間とは対局しないと。井山九段と虎丸君が王座戦で、きょう、虎丸君が勝てば王座を取るんですけれども、彼らのような棋士もAIで勉強しているんです。AIは昔は有名棋士のデータを詰め込んでやっていたのが、今はAI同士が打ち合うから、もうデータ量は棋士の対戦の比じゃないわけだよね。絶対かなわない。そこまでいっているわけです。
2045年にはAIが人間を超えるシンギュラリティが来るということをカーツワイルが言いました。次のページにある新井先生は、AIというのはあくまでもソフトで動いているだけだからシンギュラリティは来ない。ただ、シンギュラリティって何なのって、人間を超えるって何なのって、これは定義にもよるんだよね。囲碁の世界では、もう人間を完全に超えているし、いろんな分野で超えている。これからどういう世界が来るのかは分からないけれども、こういったAIなり、ビッグデータなり、あるいはIoTでいろんなものが結びつく。そういうことによってどんどん進んでいくんです。むしろ、新井先生があちこちで、おっしゃっているのは若い人の読解力が落ちていることこそここが大きな問題なんだと。
東ロボ君という新井先生がリーダーで東大に合格できる能力を身に付けることを目標にしたプロジェクトですが、もう無理だというので、一昨年、このプロジェクトは解散したんです。僕はそれはちょっと極論だなと思っていましたけれども、この時に英語についてはNTTの研究所が担当していた。プロジェクトは解散したんだけれども、英語については、うちの研究所で引き続きやっていたんです。つい今月初めかな、日経なんかに出ていましたけれども、ついに英語で東大の入試で80数点、90点を取れるようになったと。だから、東ロボ君は解散したけれども、1~2年でちゃんと合格できるようになる水準までいったんです。私はこれから先の世界というのは、どんどんスピードは速くなっていくんだと。したがってどういう世界が来るかというと想定もつかないんだけれども、やっぱりそれぞれの先行きを考えておかないと、とんでもないことになってしまうんだろうと。人間をはるかに超えていくという分野がいっぱい出てくるという。
以前クローン人間が、騒がれたが、人間をつくることももうできるわけですよね。しかし倫理の世界から言ってそんなものをつくっちゃいけないんだ。このAIの世界というのもこれからいろんなことができるようになってくる。うちの研究所の中でさえもう五感について、今まではコミュニケーションというのは耳だけの問題であったのが、匂いや味などの感覚を伝える研究もやっています。
ムーアの法則って聞いたことがあると思いますけれども、1.8年、2年で能力が2倍になるついうものですが。もうそろそろ限界に来ていると言われております。そうすると、次は量子コンピューターだといわれているんですよね。量子の世界って私も説明を聞いても分かりません。0か1というのはコンピューターの世界で、量子の世界では0と1を同時に操るといわれています。量子コンピューターになったら性能が桁違いに上がる。去年、NTTが変わった「量子コンピューター」を発表したんです。普通の量子コンピューターというのは、マイナス273度、絶対温度に近づけないと作動しない。NTTは光が得意だから、光を使って同じような計算を常温でできる。従って電力消費も少なくなる。コンピューターの世界というのは、いかに電力消費を減らすかがコストの面で大切なんです。まだ汎用ではないんですが難しい組み合わせの問題などは得意なんです。
だから、よくセールスマンが回らなきゃいかん箇所を、どういうルートで回れば一番速く回れるかというのは簡単なようだけれども、これが100、200と増えてくると、組み合わせというのはもうむちゃくちゃ多いんです。この前、Googleの量子コンピューターが日経に出ていましたけれども、結局、今のコンピューターで何年もかかるというのを数時間或いは数分で計算できると。そういう世界が来るんです。でもNTTが発表した時「これは汎用でないから量子コンピューターと認めない」と言われて、今は量子コンピューターという言葉を使わないんですけれども、こういう点を研究してくれとかここを改善してくれ、そういう批判や要望を出してほしかったのですが。
そして9ページにあるように、「もっとも強いものが、あるいはもっとも知的なものが生き残るわけではない。もっとも変化に対応できるものが生き残れる」まさにこれだと僕は思うんです。
これから、いわゆるデジタル時代というのは、一体何が課題かといったら、1つは職業雇用の問題というのが必ず起こる。既に起こりつつあるけれども。オックスフォード大学と野村総研が2年前に出した研究論文で、このデジタル時代が進めば、10年、20年後には今の職業の半分がなくなるとしています。でも、今われわれがやっている仕事のかなりの部分がこのデジタル機器に、あるいはデジタルサービスに置き換わるのは間違いないでしょう。
だからと言って、私は雇用の量についてはそんなには心配していません。18世紀の産業革命で雇用の問題が大きくクローズアップされて、ラッダイト運動って機械を破壊する運動が起こったり、日本がアメリカに自動車を大量に輸出する、これはアメリカの経済を、あるいは国民を苦しめているというので日本車をハンマーでたたいたり。ああいう運動がありました。でもその分野で雇用が減っても、他の分野で必ず新しい職業というのが出てきたし、これからも出てくると思うんですよ。ただ問題は、なくなったものと新たに出る職業とのギャップが大きいから、ある日、突然こっちがなくなって、こっちが必要だからといって、そこにみんなが就けない。それと、再訓練をするって大事だし、しなきゃいかんのだけれども、スピードが間に合わないんだろうと思うんだよね。だから、雇用の問題というよりは雇用の中身というのががらっと変わってくるから、それにいかに対応するかというのを企業も考えなきゃいかんし、個人も考えておく必要があると思っています。
<④に続く>